人工ダイヤモンドは天然と変わらない美しさ、割安感のある価格、豊富な選択肢が魅力です。海外ではCVD製法のラボダイヤモンドも人気を集め、日本ブランドも増え、値段が手頃な指輪なのか比較して紹介しています。ジルコニアやSonaはダイヤモンドなのかも解説しました。人骨から合成する人工ダイヤモンドも密かな人気を集めています。
執筆者はしまだです。米国宝石学協会GIAホルダー、年間30件以上の鑑定に携わる。現在、Gem-A FGA取得に向けて研鑽しています。記事の編集ポリシー・レビューガイドラインも併せてご確認ください。
人工ダイヤモンドとは
人工ダイヤモンドは一般的に合成ダイヤモンドと呼ばれています。
その名の通り人工生産物で、鉱物学会は”鉱物は地質学的に生成されたもの”と定義していますので、学術的な意味合いでは人工ダイヤモンドは鉱物や宝石ではありません。1950年代に人工ダイヤモンドの開発に成功し、1970年にGEにより天然と同等の質をもつ1カラット以上の人工ダイヤモンドが開発されました。
日本国内における人工ダイヤモンドは2015年前後から宝飾用として市場に出回り始めました。その呼び名も人工の他、冒頭に説明した合成、そして人造、ラボなど定まっていない状況です。
海外では既に天然ダイヤモンド採掘における土地荒廃、水資源枯渇などの環境破壊が指摘され、危険・児童労働を改善させる新たな可能性として人工ダイヤモンドはサスティナブルだと評価され一定の市場があります。アメリカンドラマSUITS/スーツで活躍したイギリスのサセックス公爵夫人であるメーガン・マークル(Meghan Markle)やハリーポッターで人気を集めた女優エマ・ワトソン(Emma Watson)などのセレブリティーが人工ダイヤモンドのジュエリーを着用し、認知度が上がっています。
人工ダイヤモンドとジルコニアやsonaは違う?
ジルコニアは人工ダイヤモンドではありません。
ダイヤモンドと比べジルコニアは科学組成は勿論、電動率、結晶率、硬度、屈折率、分散度それぞれ異なりますが、似た輝きからジルコニアは「模造」ダイヤモンドとして用いられ、二酸化ジルコニウムの人工石です。
一部ブランドやショップでCZダイヤモンドと表記されている場合もあり混同しないよう注意が必要です。例えば、Sonaダイヤモンドも同じように、キュービックジルコニアをダイヤモンド物質でコーティングし、より輝くよう作られた人工石です。
他にもダイヤモンドを模した人工石はモアッサナイトやYAG、GGGなどがあります。これら模造品はガラスやキュービックジルコニアのようなシード素材で作られています。例えば、モアッサナイトなどの模造石は人工ダイヤモンドの硬度と光学特性に欠け、時が経つと摩耗しやすく輝きが衰えます。一方、人工ダイヤモンドは天然と変わらず美しさは劣化しません。
CVDは人工ダイヤモンドの合成方法
Cvdは人工ダイヤモンドの合成方法です。
CVDはChemical Vapor Deposition(化学気相蒸着法)の略で、基板上に人工ダイヤモンドを生成します。具体的には期待の炭化水素をプラズマ状態に変化させて炭素原子を堆積させて人工的に作り出します。HPHT(High Pressure and High Temperature)に比べ、CVDの方が小回りが効いてジュエリーグレード向けの合成方法として採用されています。
つまり、完全にコントロールされた環境下で人工的に生成されるため、 不純物を含まない状態で結晶化させることが可能です。例えば、天然ダイヤモンドの9899%は、窒素を含む「タイプI」に分類されますが、人工ダイヤモンドはわずか1~2%の不純元素をほとんど含まない「タイプII」に分類され、その美しさは天然と比べて際立った透明感、輝きを持つ個体が多いのが特徴です。
ダイヤモンドを人工と天然で見分ける方法
ダイヤモンドは人工と天然で見分ける方法があります。
例えば、赤外線や紫外線、X線によるスペクトル分析で天然かが識別できます。最も一般的な方法は、デビアスが開発したDTC(Diamond Trading Company)という装置を使って、蛍光紫外線を用いて含まれる窒素、ニッケルや他の金属の不純物を検出し、人工と天然をはっきりと分類できます。簡単に言えば、X線を照射し人工であれば濃黄色の蛍光を発するため簡単に判別できます。
一方でプロでもテクニックを通して見分けますので、一般消費者が肉眼で見分けようとしても違いはほとんど区別できないはずです。
人工ダイヤモンドの価格と品質
人工ダイヤモンドの価格をリサーチしてみました。
ジュエリーではなくルースですが、1.57カラットGカラーVS1クラリティExcellentカットの人工ダイヤモンドの価格が3000ドル(鑑定書付き)から選べます。
一方で、全く同じ条件がないため誤差は折り込んで欲しいのですが、1.5カラットGカラーVS2クラリティVery Goodカットの価格が11,000ドルから選べます。
仮に同じ条件であれば、圧倒的に人工ダイヤモンドの価格はお得です。しかし、仮にこれから価格が下がれば資産価値も応じて下がるため迷い所です。
人工ダイヤモンド1カラットの価格
人工ダイヤモンド1カラットの価格を紹介します。
現在、流通している人工ダイヤは160点あり、最も安い価格はIカラー、SI1クラリティ、Goodカットで$970(IGI鑑定書)でした。最も高い価格はDカラー、VVS1クラリティ、Excellentカットで$3,000(IGI鑑定書)でした。
同条件で最も価格の安い天然ダイヤ(GIA鑑定書)と比べても、3分の1以下の価格で人工ダイヤが流通している事が分かります。
ダイヤモンドの値段に関してはこちらの記事で深掘りしています。
海外ではラボダイヤモンドと呼ばれ急成長
海外では人工でなくラボダイヤモンドと呼ばれています。
PAUL ZIMNISKYのレポートによると、ラボダイヤモンド市場は2018年で推定19億ドル、年22%の成長を続け2023年には53億ドル、2035年には149億ドルに成長すると予測しています。長期的にはラボダイヤモンドの供給は無限であり、市場の拡大に伴い価格はさらに下がるとも言われています。
人工ダイヤモンドの値段はもっと下がる?
人工ダイヤモンドの値段は今後もっと下がる可能性があります。
数年前までの値段は天然ダイヤの70%が相場でしたが、現在は10%台にまで下落しています。技術革新に伴って製造コストや下がり品質が安定しますから、値段はさらに下がると言われています。
例えば、約100年前にフランス人の化学者ベルヌーイが人工ルビーの開発に成功し、今では10カラット人工ルビーの値段は数千円となり約10万倍もの差となっています。人工ルビーは主に工業用で、一部では似通った人工スピネルと一緒に一部ではジュエリー素材に使われています。人工ダイヤモンドも同じような軌跡を辿るのではないかと認識されています。
人工ダイヤモンドの日本ブランドまとめ
人工ダイヤモンドの日本ブランドは年々増え、この勢いは続いてゆきます。
市場の急成長によって、様々なブランドが参入を始めています。例えば、京都の老舗ジュエラーの今与が日本初の人工ダイヤモンドブランドSHINCA(シンカ)を2018年にスタートさせラボ・グロウン ダイヤモンドというキャッチコピーと共に注目を集めました。続く2020年にはエシカルでサステイナブルな切り口からスタートアップ企業としてPRMAL(プライマル)が参入、2021年には百貨店の松屋がENEY(エネイ)がブランドを発表しています。
国際的な有名ブランドも一部では人工ブランドをラインナップに取り入れ、デビアスやスワロフスキーはたまたま見かけましたが、調べたらきっともっとあるはずなので機会をみて特集する予定です。
人工ダイヤモンドの指輪ブランド比較
カラー | クラリティ | カット | デザイン数 | 価格帯 | |
SHINCA | J | SI2 | Good | 158 | 3~250万円 |
PRMAL | G | VS2 | Good | 167 | 2~22万円 |
ENEY | G | VS2 | Very good | 50 | 1~39万円 |
人工ダイヤモンドの指輪ブランドを比較して紹介します。
人工的に作られているとはいえ、ジュエリーとして使える品質はごくわずかでブランドによって品質も変わってきます。傾向としては後発の方が先行ブランドより良い条件を揃えてきています。
人骨からダイヤモンドに変えて故人を偲ぶ
人骨からダイヤモンドが作れます。
人骨だけでなく遺灰や遺髪などからダイヤモンドを人工的に作ることに人気が集まっています。その背景として、お墓や仏壇だけでなく、そして宗教宗派を超えた新しい形の追悼として注目されています。例えば、人骨だけでなくペットの骨を使った人工ダイヤモンドも増えているようです。
国内に依頼できるブランドや業者はいくつかありますが、その中でも世界的な業界シェアを獲得しているアルゴダンザ社(スイス)は日本でも受付窓口があるので実績もあるので安心して依頼できます。
あとがき
人工ダイヤモンドには可能性があります。
少ない予算で数倍の価値があるダイヤモンドと同等の品質のルースを手に入れることができます。今後更に技術革新され市場も成長すれば潤沢に供給されるようになり、もっと価格が下がってくるでしょう。天然と人工の存在価値はますます二極化されるのではないでしょうか。