ダイヤモンドのカットは4Cの中で輝きや煌めきを司ります。グレード(ランク)はトリプルエクセレントが最高品質ですが、ファンシーカットの世界を覗けば珍しいカットでもお気に入りが見つかるでしょう。ブリリアントで突き詰めるか、プリンセスやローズのように幅を広げるか、一緒に悩みませんか。
執筆者はしまだです。米国宝石学協会GIAホルダー、年間30件以上の鑑定に携わる。現在、Gem-A FGA取得に向けて研鑽しています。記事の編集ポリシー・レビューガイドラインも併せてご確認ください。
ダイヤモンドのカットについて
ダイヤモンドのカットは美しさと価値に影響します。
ダイヤモンドのカットはラウンドブリリアントカットを除けば時代の人気によって価格は大きく変わってきます。また、カットによって優先すべき4Cが変わってきたりします。ダイヤモンドの輝きや煌めきを決める最大の要因はカットですが、美しさは輝きや煌めきだけでは語れません。
ダイヤモンドの4C
ダイヤモンドの4Cとは国際的な品質基準です。
カラット(重さ)、カット(技術)、カラー(色)、クラリティー(欠点と内包物)の頭文字Cを取って4Cと呼ばれ、それらの数値と連動して価格が決められます。これらの基準により、4Cの評価が分かればプロ(業者)だけでなく、ユーザー(消費者)自身でもおおよその価値がわかるようになりました。一方で全ての価値構成要素が4Cだけでカバーできる訳ではなくほんの一部だと注意しておきましょう。
4Cに関しするまとめ記事を準備していますので、こちらをご覧ください。
ダイヤモンドのカットグレード(ランク)について
ダイヤモンドカットのグレード(ランク)概要を紹介します。
そもそもカットとは、ファセットと呼ばれる研磨された平面の位置と光による輝きの良し悪しによってグレードされます。例えば、石のバランス、対称性および研磨によって、明るさ(Brightness」、七色の光(Fire / Dispersion」、きらめき(scintillation)の3つの輝きが生み出されますつまり、ダイヤモンドのフェースアップの外観に影響を与えるこれらのファセットの割合を計算する事で一定のグレードと評価できます。
カットの良いダイヤモンドは、より多くの光がクラウン(ガードルより上の部分)を通過する設計となっており、Excellent(エクセレント)からPoor(プアー)までの5つのグレードがあります。カットグレードの評価は形(Proportion、Symmetry)と仕上げ(Polish)で評価されます。この内Proportionに関しては、下記の要素がそれぞれ5段階で評価され総合評価とします。
- 全体の輝き、輝度、明るさ、ブリリアンス、ダイヤモンドから反射される光
- ファイヤー、ディスパージョン、スペクトルへの光の分散
- シンチレーション、光のパターン、光のモザイク、ダイヤモンドを動かしたときの煌めき
- 比重比率
- 耐久性
トリプルエクセレント(3EX)とは?
トリプルエクセレントとはカットグレードの最高級評価のことです。
先ほどカットグレードは5段階だと説明しました。実は形(Proportion、Symmetry)と仕上げ(Polish)この3つ全ての項目でExcellentと評価された最高級カットをトリプルエクセレントカットと呼んでいます。例えば、最近では人気を集めているハート&キュービット(H&C)や海外ではハート&アローなどと呼ばれ各ブランドで呼び名は異なりますが美しいカットの新たな要素とも言われています。
一方で、優れたカットグレードのダイヤモンドの中には、対称性が不完全でこのパターンが欠けているものがありますが、それは美しさが欠けているという意味ではありません。理想的なカットが常にハートと矢印を示すとは限らないことに注意しておきましょう。
アイデアルカットはグレードではない?
アイデアルカットはグレードではありません。
アイデアルカットは世界三大カッターズブランドであるラザールにいたベルギー生まれのマルセル・トルコフスキー(Marcel Tolkowsky)が開発しました。1980年までアイデアルカットはGIA(米国宝石学会)のExcellentとして教材に採用されていましたが、現在はGIAが独自に開発したフォルムがExcellentとして採用されています。GIAの諸事情を鑑みても、カットグレードはExcellentと同等もしくはVery goodグレードだと判断するのが妥当ではないでしょうか。
ファンシーカットとは?
ラウンドカット以外のカットは総じてファンシーカットと呼ばれています。
ダイヤモンドは丸くカットしたものが一般的でラウンドブリリアントが有名です。一方で、ファンシーカットはメジャーなペアシェイプからマイナーなマーキスまで種類は沢山ありますが、カットの違いで同じ品質のルース(裸石)でも価値が変わります。
例えば、価格は人気(トレンド)によって左右されます。つまり、ブリリアントは安定した人気があり価格も安定しますが、ファンシーカットはトレンドによる値幅が大きく価格は安定しません。例外もありますが、ファンシーカットは総じてブリリアントより価値が半減する(ブリリアントを100として、ペアシェイプ50、マーキス55~57)と言われています。
ダイヤモンドの人気カット3選
ダイヤモンドの人気カット3選を紹介します。
TOP3は不動のラウンドブリリアント、人気沸騰中のプリンセス、幅広い支持層があるローズカットを紹介しましょう。
ダイヤモンドはやっぱりラウンドブリリアントカット
ラウンドブリリアントカットは丸みのある形をしたカットです。
58面にカットされたラウンドブリリアントカットは、上部から進入した光が全て内部で全反射して上部から放たれるため、ダイヤモンドの輝きを際立たせるように設計された理想的なカットとして有名で、全ダイヤモンドの約2/3を占めています。
一部のラウンドブリリアントにはハート&キュービット(H&C)やハート&アローのように、その美しさとコストのかかる技術によって更に希少価値が高まっています。16本の光の矢のように見えるビーナスアロー カットやラウンドブリリアントカットではありませんがさくらダイヤモンドなどカットの技術はまだまだ進んでいます。
ブリリアントカットは今なお進化を続けていて、こちらの記事で詳しく紹介しています。
人気急上昇中のプリンセスカット
プリンセスカットとは正方形または長方形のカットです。
変化がつけられたブリリアントファセットが施されエメラルドやステップなどの同形カットと比べ、息をのむほどのブリリアンスとファイヤーで人気を集めています。(ラウンドブリリアントカットを正方形または長方形にしたイメージが近い)プリンセスの選び方で最も重要なのは対称性(Symmetry)です。
形状以上に対称的かどうかが影響を与え、中間点の両側でファセットの配置が縦横ともにバランスが整っているか確認しましょう。プリンセスカットはリングが人気で、やはりブランドはティファニーで0.5カラットで49万円からです。
プリンセスカットはファンシーカットでは一番人気です、こちらの記事にもう少し詳しく紹介しました。
世界中で根強い支持を集めるローズカットダイヤモンド
ローズカットダイヤモンドは円(楕円)や西洋梨の形をしたカットです。
ローズは薔薇の蕾を模したアンティークカットの1つで1500年代に登場し、中世(1700~1800)では王族や貴族から最も人気を集め、水滴を纏う薔薇の蕾を思わせるローズカットはアンティーク市場で非常に人気があります。注意したいのは、多くのローズカットダイヤモンドは最初から輝きにコンセプトが置かれていないため、他のカットと混同してはいけません。
ローズカットはそもそも低グレード品質の輝きの少ないダイヤモンドに最適なカットで人気を集め、アンティークではSIクラリティ、Iカラー以下で、今でもSI及びIクラリティでGカラー以下に分類される個体ばかりでしょう。実は珍しいカットの候補だったのですが、ここ数年でまた人気が集まり始めたので人気カットへクラスチェンジしました。
ローズカットの鈍い輝きは、大手ブランドでの取扱いがない事が残念で、掘り下げてこちらの記事で紹介しており、併せてご覧ください。
ダイヤモンドの定番カット4選
ダイヤモンドの定番カット4選を紹介します。
定番はもっとありますが、現時点では人気のあるペアシェイプ、オーバル、スクエア、バケットカットに絞って紹介します。
涙の繊細さと星の輝きを併せ持つペアシェイプカット
ペアシェイプは西洋梨(Pear)の形をしたカットです。
ペアシェイプダイヤモンドは一粒の涙のような繊細さと、見事なまでに光り輝く星の強さの両方を備えています。ネックレスも人気がありますがやはり、リング(特に婚約指輪)として人気があります。
ペアシェイプの選び方はラウンドブリリアントよりも多めの色を呈する傾向があるため、カラーは上位もしくは思い切ってファンシーカラーを選びましょう。また、ペアシェイプでは対称性(Symmetry)が最も重要となり、長さ対幅の理想的な比率は1.50〜1.75:1が一般的ですが選択肢が多ければ好みを優先しましょう。
最後に注意したいのはボウタイと呼ばれる石の明るい部分と暗い部分のコントラストが大きなペアシェイプは避けた方が良いでしょう。先端(Point)を自分から遠い側に向け下向きにした伝統あるペアシェイプデザインが一般的です。
控えめな上品さを演出するオーバルカット
オーバルは縦長に丸みのある形をしたカットです。
控えめな上品がありながら、美しく、クラシックで、そして少しだけ特別な印象を持たせてくれます。ラウンドカットより表面積の関係で見た目も大きく映り、指を長く見せる効果があります。
オーバルの選び方は、一般的な楕円形の長さ対幅の比率は1.3:1から1.4:1ですが、人気があるのは1.7:1で、より長め(細め)の楕円形に美しさを感じる傾向があります。サイドストーンと組み合わせてコントラストを楽しむようなデザインが上品で一般的です。
落ち着いた印象に深みを楽しむスクエアカット
スクエアカットは正方形のカットです。
長方形の面にはピラミッドのような階段状のステップカットが採用され、輝きよりカット面の大きさを生かした透明感を楽しみましょう。
バゲットカットにはスマートな演出を
バゲットカットは長方形のカットです。
外周から中央まで、長方形の面が平行なステップ状に並ぶようカットされ、エメラルドカットのように角を切り落とさないためシャープな印象になります。
ダイヤモンドの珍しいカット3選
ダイヤモンドの珍しいカット4選を紹介します。
珍しいカットもまだありますが、人気のあるテーパー、マーキス、アッシャーに絞って紹介します。個人的には、角度を持たないため輝きを捨てたカボションカットなども紹介したいのですが、また機会を見つけて追記します。
テーパーカットはデザインの名脇役
テーパーカットは先細った台の形をしたカットです。
長方形であるバゲットカットと違い、多くの場合はテーパーカット単石でセッティングされる事はありません。主役となる石のサイドストーンとして挟み込み魅力を引き立てます。
マーキスカットは女性の象徴
マーキスカットは水雷形と呼ばれたボートの形をしたカットです。
ルイ15世の妻であったポンパドゥール侯爵(Madame de Pompadour)の唇に似ていたことから名づけられたと言われています。マーキスカットはフランス語で小さな船を意味するナベット(navette)とも呼ばれています。
ラウンドカットより大きく見えるため、指をより長く・細く見せるため人気がありましたが、21世紀初めにプリンセスカットの台頭し始め、人気を奪われてしまいました。マーキスカットとオーバルカットの違いはウィングと呼ばれる腹から先端にかけての湾曲部分がマーキスの方がよりシェイプしているのが特徴です。
アッシャーカットは八角を司る無限の輝き
アッシャーカットは正方形の角を取ったような八角系の形をしたカットです。
エメラルドカットのステップカットによく似ていて、アッシャーカットは無限の輝きを秘めたカットとして人気があります。一方で、他のカットりよりテーブル面が平らで内包物が肉眼でもはっきり見えるので、選ぶ際にはクラリティを最も優先して選びましょう。
世界中から注目されるリリー社のダイヤカット
リリー社のダイヤカットは世界中から注目されています。
リリー社とは、世界トップ10 のダイヤモンドファームで、スクエアカットの世界的なリーダーとして知られているイスラエル企業です。Criss®Cut・Meteor®Cut・Lily® Orchidea® cut 等のオリジナルカットを開発したことで世界からその技術力に注目が集まり、特にLily®(リリー)カットはルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)で採用されて以来、一躍有名となりました。
今では、Lily® カットと Orchidea® カットは、難易性や特殊技術の問題で、世界で唯一5人しかカットが許されていません。そのため、ルース(裸石)のみでは購入できず、ルイ・ヴィトンブランドでのみ購入する事ができます。
あとがき
カットによって優先すべき4Cも変わります。
あなたの探すダイヤモンドカットに合わせて条件を見直すのも手。